序章

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(ここは……、どこなんだろう?) 木の葉が擦れる音すらしない静寂な森の中で、男は目を覚ました。 広い、広い森だ。木は富士の樹海のように生い茂り、星一つ出ていない。かろうじて射している月明かりのおかげで周りの様子はわかるが、自分が何処にいるのかは全くわからなかった。 目覚めたばかりだからか、男は頭がボーッとし、思考がまとまらなかった。 今、自分は何処にいるのか、それ以前に何故自分はこんな森の中にいるのか、わからないことだらけだ。 なんなんだろう?本当にわけがわからない。さっきまで俺は……、いや、さっきまで何をしていたのかもわからなくなってきた。 何もわからない自分に苛々してくる。一体何が起きたんだろう?記憶を無くしてしまったのだろうか。そうだ、俺は一体………誰なんだろう? 考えれば考えるほど記憶が逆に無くなっていく気がした男は、何処ともなく歩き出した。荷物も何も持っていない。着物もいつも着ているよれよれの物だ。実際はいつも着ていたかどうかもよくわからないが、着古した感じの着物だったからきっと自分の普段着だったのだろう。 方位磁石も無いのに歩き回っても森を出られることは無い。わかってはいたが、何もせず突っ立っているよりもましだと思った男は、広い森を宛もなくさ迷い始めた。
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