第一章 閃光のように

2/2
734人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
―天地を従えし皇帝の神槍― ―生死を定めし帝王の大剣―  パックの詠唱に対し、黒いマントの男は同種呪文で応じた。粋が通じる相手ということだ。かつての友のように。 ―罪ありし者に虚空の断罪を、死すべき者に永遠の安息を― ―生ありし者に復讐の憎悪を、消えゆく者に介錯の慈悲を―  呪文詠唱というのは隙だらけ。しかし、詠唱中に相手を殴るという無粋な行為を、パックも黒いマントの男も選択しなかった。ただひたすらに自己の魔力を高めていく。 ―大気を分かち、命を散らせ― ―苦痛を満たし、闇夜を燃やせ―  両者の呪文詠唱が完了したのは全くの同時だった。 ―雷の槍(インペトゥス・フルミーニス)― ―悪霊の焔(インケンディウム・オブスクーリー)―  パックが放った二股の雷槍を、豪火の大蛇が喰らいつくように迎え撃つ。凄まじい白光が、まるで夜の森の中に太陽が生成されたかのように炸裂した。 ―不死鳥の舞(フェニキス・アラス・インケンデンス)―  黒いマントの男の詠唱に応じ、炎灼の大蛇が姿を変える。虹色に輝く豊かな翼と長い尾羽。  飛翔する不死鳥が翼を薙ぐ。放たれた幾千もの不死鳥の羽根が、炎の弾幕となってパックに襲い掛かった。 ―千雷槍雨(キーリアデス・ケラウノース)―  パックは雷の槍を掲げた。天に向かって光の柱が立ち昇る。  次の瞬間、空を覆う厚い黒雲から幾千もの稲妻が地表に降り注いだ。雷の槍(インペトゥス・フルミーニス)が広域殲滅呪文と化した姿である。  しかし、戦いの中にあって、パックの意識は他に向けられていた。  ジョージ・パーキンソン。  我が弟子にして、親友の遺児。    これは俺の戦いであり、最期の戦いとなるだろう。  だからお前に託す。この先はお前の戦いとなる。お前に見せたいものがたくさんあるんだ。  地上最強の男パック・オルタナは、万感を胸に抱き、閃光のように剣を迸らせた。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!