半死半生の騎士と全知全能のカミ

第十一章 冥王の覇道

「よお、テイラー三視。ご機嫌麗しゅう」
「おやおや誰かと思えばパーキンソン三視殿ではありませんか。お変わりないようで何より」
と冗談を言い合い、ジョージとハンクは声を上げて笑った。
「良かったじゃねぇか。念願だった本物の階級章もらえて」
　カール城潜入ミッションでジョージは一等守備視、ハンクは三等守備佐を騙(かた)っていた。階級こそ下がったが、今度は偽りのない一本線に星一つだ。
「勝手に人の念願を決めつけないでくれる？　君こそ将来は軍人になりたかったんだろ。早速夢が叶ったね」
「思ってたのとは違うけどな。今んとこ剣でどうこうって感じじゃねぇし」
　そう言うジョージの上空を、二機編隊のバイク型戦闘機ベスパが車輪から青白い光の尾を引きながら飛行していった。
「何より面白くねぇのはフロルが一視になってることだ。二つも上だぞ。オレのが活躍しただろ絶対。結局あれか、年功序列ってやつ？」
「カールでは個人の武が大きく評価されるが、モリアーティーでは必ずしもそうではないということだろう」
　フロルがそれらしいことを言っているが、ジョージは腑に落ちない。
「んじゃお前の何が評価されたんだよ？」
　腕っぷしでも年功序列でもないなら、勇者の血筋というやつだろうか。
「統率力や適切な状況判断能力ではないかな。私は指揮官向きだということだ」
「偉そうに。自分で言うかね」
「適性の問題だよ。軍人なんて実際には戦闘以外の仕事の方がずっと多いのだ。それを全て私が担当すると言っているのだから儲けものと思え。お前は現場でこそ力を発揮する。というわけでジョージ、飲み物を持ってこい。指揮官命令だ」
「知るかよ海の水でも飲んでろ」
　東大怒海洋上。モリアーティー海軍第一艦隊旗艦アストラプサトー。カールの三人は、聖地攻略作戦の総司令部が置かれた軽巡洋艦の搭乗員となっていた。

　天宮を脅かした戦いは、モリアーティー公国の聖地攻略作戦にも少なくない影響を与えた。
　後の正式な調査により、配備済み甲型強化アーマーのいくつかに魔法陣の術式が組み込まれていることが判明した。術式はまず人工オリハルコンが微量に含んでいる魔法力を介して初期起動し、次に肉体契約の応用で人の血肉を犠牲に魔法陣へと発展させる仕組みだった。
　この結果をもって、全ての甲型強化アーマーを破棄し、代替として乙型を再配備することが決定された。すでに東大怒海に展開していた各部隊は、装備変更のために本国へ一時帰還することとなり、聖地攻略作戦は遅延を余儀なくなされた。
　また、二つの秘宝の防護をより強固なものとするために、聖地攻略作戦に合流するはずだった司公卿ロトは天宮に留まることが決まった。ロトが指揮する予定の第五艦隊は、神官団長シャカ率いる第二艦隊が吸収する。そして、ロトが秘宝の守りに専念できるように、モリアーティー大公フィネラスが天宮を離れ、第一艦隊に合流することとなったのである。
　国家元首たるフィネラスが戦場に向かうことについては、当然ながら政府高官及び軍部のほぼ全員が猛烈に反対したが、最終的にはフィネラスの強い意向により押し切られる形となった。秘宝を敵の手に渡さないためには自身の危険を厭わない志の高さもさることながら、「天宮以外となれば、洋上の方が他の四神官と連携が取れる故、かえって安全やもしれぬ」とまで皮肉を食らってしまっては、事実として天宮を危険にさらした軍部は返す言葉もなかった。
　そして、ある意味最も予定外だった出来事は、三人の異国の人間が軍艦に乗ることになったことだろう。
　天宮の戦いに黒いマントの男フェリキュール・ブラックは参戦しなかった。ならば、次は洋上の戦いで姿を現すかもしれない。ジョージは船に乗せてくれるようフィネラスとロトに掛け合ったのだ。ロトは渋い顔をしたが、フィネラスはほとんど二つ返事で承認した。
「パーキンソンの実力に疑いの余地はなかろう。テイラー、ガッドも我が軍の勝利に大いに貢献したと聞く」
　フィネラス出陣に伴い、マチルダら近衛隊の精鋭も同行することとなっていた。形式上三人は近衛隊所属の一班ということになって、第一艦隊旗艦アストラプサトーに配属されたのである。それも視官待遇。下士官を一足飛びに越えていきなり初級幹部となった。

「ここで経験を積めば、カールに帰った時のいいアピール材料になるかもよ。就職は最初のインパクト大事だからさ、履歴書の経歴欄に『モリアーティー海軍三等海視』とか書いてあったらバグマン将軍の興味を引くこと間違いなしだって」
　ハンクがジョージの肩を叩いて言った。ハンクはハンクで、軍属経験が今後の演技の幅を広げてくれるに違いないと鼻息荒い。
　カール軍に入るということはアホのドゥーレムの部下になるってことなんだよな。ジョージは衝撃の事実に気づき、下唇を噛んで腕組みをした。