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僕は食べ終わった皿が並ぶテーブルを見つめながら、赤ん坊みたいに声をあげて泣いた。
もう僕は、どうやってもたまこが選んだ道で、たまこと一緒に歩くことはできない。
僕が失った物は大きすぎた。
そうやって、どれくらいの間泣いていただろう。
チャイムが鳴った。
たまこ!!
僕は鳴り続けるチャイムの音に胸をはずませながら、玄関に走って向かった。
ドアを開けると、予想もしていなかった顔と目が合った。
僕の目によく似た切れ長の目をした男性。
シワや白髪で歳老いて見えるけど、若い頃はものすごくかっこよかったと思わせる人だった。
不思議なことに、僕は彼が実の父親だとすぐに分かった。
これまで会ったことがなかったというのに。
今は家族が別にいて、一年に何度か出す手紙だけが僕らの関係をつないでいた。
「真一..」
僕の体は彼にぐいっと引き寄せられ、次の瞬間には抱きしめられていた。
「ずっと会いたかった。これからは、私と一緒に暮らそう」
彼は泣きながら僕に言った。
でも僕は少しもうれしくなかった。
それは僕がずっと抱きしめてもらいたかった腕じゃなかった。
欲しかった言葉じゃなかった。
鼻をつく高そうな香水の香りが僕の心をどんどん冷たくしていった。
しばらく僕は感情のない人形みたいに、されるがままにしていた。
彼はそれに気付いたのか
「どうした?うれしくないのか?」と、うつむく僕の顔をのぞきこんだ。
僕は泣いていて、何も言えなかった。
これまで一度も会うことのなかった彼がこの家に来たことで、僕はたまこをさらに遠くに感じ、たまこにはもう二度と会えないような、そんな気がしていた。
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