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だけど、僕は泣くことも倒れることもないまま、回れ右をしてとぼとぼと駅から家へ帰った。
家に帰ると父親が玄関に座りこんだまま僕を待っていた。
「しんいち..」
顔を上げた父親の目は真っ赤だった。
僕とよく似た切れ長の目。
僕は父親に何も声をかけないまま、自分の部屋に直行した。
ドアを勢いよく閉める。
いつもの臭い。
いつもの風景。
ここはいつもの時間が流れている。
ようやく、僕は何もかもを失くしてしまったことを心の底から悲しんで、赤ん坊みたいに無防備で、大きな声で、ただ、泣いた。
今まで我慢していたのは、他人に泣いてるところを見られたくないとか、恥ずかしいからという理由じゃない。
無心で泣ける場所で泣きたかっただけだ。
たまこがいなくなった喪失感は僕の心を埋めつくして、あとからあとから溢れる涙となって表れては消えていった。
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