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誰かがドアを優しくノックする。
「しんちゃん..?」
はっとした。
たまこの声だった。
僕は立ち上がろうとしたけど、なぜだか体に力が入らず動けなくて、顔だけをドアの方に向けた。
「しんちゃん、聞こえる?」
僕の目から涙が流れ落ちた。
もう泣ける力も、溢れる涙も、とっくに尽きたと思っていたのに。
「お母さんね、今日の朝早くに、家を出たの。今後..しんちゃんと二度と会わないつもりで..」
「なんで勝手に決めるんだよ!」
たまこの言葉を遮るように僕は叫んでいた。
「一緒がいいって..お母さんと一緒がいいって言ったのに..」
いつの間にか、僕はたまこに素直に甘えられていた頃の、幼い男の子に戻っていた。
「お母さんが大好きだから、ずっと僕の側にいてよ。勝手に僕から離れていかないでよ..。」
ドアの向こうからたまこの泣き声が聞こえる。
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