10.初めての。

2/14
6259人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
ほのかに薄暗い照明。 ふすまの閉まる音も、浴衣同士のかすれた音も、 ひどく聴覚を刺激して。 この大きな心臓の音も、聞かれてしまいそうだと、 「…ま、さや…くん。 あの、何か飲みますか? 緑茶とほうじ茶がありますけど…」 「…じゃあ、ほうじ茶」 「はい…っ。 今、お湯をわかしますから…少し待っていてくださいね」 互いの言葉はぎこちなく、語尾も震えている。 不自然な沈黙も、いやに響く。 「…おい、冬間…、?」 先ほどから全身をかけ巡る緊張を少しでもぬぐうべく、とりあえず何か言葉を投げかけようとした、…刹那。 視線の先にいる彼女は、いまだ湯の沸いていないポットに手を添えたまま…立っていて。 湯のせいか、羞恥のせいか。 はたまた緊張のせいか… 頬を赤らめたまま、ただ…前の一点を見つめている。 …そして、次の瞬間、 …ピーーー、… 「ッ、バカ!!」 「、え…?」 その高々とした音は、熱湯が沸いた証。 それは、ポットの熱の上昇も示していて。 今、彼女を引き寄せていなければ…間違いなく、大火傷をしていたであろうと、 「、危ねー… …お前な、いくらなんでも、」 …、あ… 触れた先から、伝わるのは… 彼女の体温と、 今にもはち切れてしまいそうな、鼓動と… 「…っ」 「、きゃ…っ」 後頭部を、抱えこむように…抱いて。 もう、息もできないくらいに… 苦しい、
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!