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『はるき』、という単語に…やよいの肩が、ひどく強張る。
「、兄さん…?」
「今まで忘れていたのも、母さんが何かしたからなのかもしれないが…やっと思い出したんだ。
『はるき』は、…」
「雅也ッ!!」
凄い剣幕を携えた、叫び声にも類似する大声に…その場にいる人物全員が、反射的に息を飲み込んだ。
…やよいは、振り向きざまに雅也を見据えて。
「…私に逢いに来なさい、雅也。
その時、すべて教えるわ…。
『はるき』のことを」
「…あぁ」
その返答を聞いた刹那、…やよいの肩が緩く叩かれる。
それを合図に、止めていた歩みを進めた。
…それ以上、言葉をかけることはなかった。
次に逢うとき。
その時に、全てを聞くべきだと思ったから…。
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「…夕映…?」
「、っ…」
「…泣くな」
やよい達が去り、…雅也と夕映が二人きりになって、数分ともせず。
夕映は、雅也の腕の中で…ひたすら涙を流していた。
「イヤ、です。
雅也くんを困らせるために、ずっと泣いてやるんです。
…わ、…私…っ」
「、…夕映?」
「もう、雅也くんに逢えなくなるかと思…っ…。
…なのに、今は目の前にいて、…私を抱き締めてくれてて…っ。
夢じゃ、…ないですよね…?」
頬に添えられた、小さな小さな掌に…自分のソレを重ねる。
…この温もりは変わっていない。
きっと、幾年の月日がたったとしても…
「あぁ。
…夢なんかじゃ、ない」
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