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…数日ぶりに見たやよいの頬は、少し痩せこけている。
…否、本当は…ずっと前から気づいていたけれど、見ないフリをしていただけで。
こんな小さな女性(ひと)に、恐怖を覚え、憎しみを持っていた自分が…何だか情けなくて。
「…あの子は、もう大丈夫なの?」
「、あぁ…夕映か?
傷を針で縫って輸血して、様子見で入院したけど…もう退院したよ」
「そう。
…よかったわ」
…一瞬、流れる沈黙。
それを先に打ち破ったのは、やよいだった。
「…はるきのこと、だったわね」
ドクン、…
「雅也が思い出した通りよ…。
はるきは、…父さんの浮気相手の子供なの」
雅也の肩が、…かすかに揺れる。
「…ユカリは、昔はどこかおっとりとした子だったから…記憶の片隅にもないのかもしれないわね…。
はるきを出産していない、なんて」
…そう。
薄らとしか覚えていないが…はるきの出産に立ち合った記憶がないのだ。
今思い出すと、…母さんの腹も、膨れていた記憶がない。
どうして、今までまったく思い出せなかったのか…この矛盾だらけの『記憶』を。
「父さんの浮気が発覚してね、問い詰めたのよ。そしたら、なんて言ったと思う…?
謝るわけでもなく、開き直って、
『相手に子供が生まれた。
相手は大学生で、育てる能力も金もない。
俺の子供だから、引き取っても構わないだろ』…ですって」
私は、…『うん』と、頷くしかなかった。
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