19.将来の夢。

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『バカ』、と、擦れたように囁かれた声色は…砂糖菓子のごとく、甘く。 耳元を悪戯にくすぐる…。 「ま、さやく…」 「…夕映…」 バンッッ!! 「あっれぇ、兄さんの靴発見! 兄さん、いるのー?!」 「「!!」」 盛大に扉が開かれた音についで、何とも騒がしい、聞き慣れた声。 二人の間に流れていた甘酸っぱい空気は帳消しにされ、一気に現実へ引き戻された。 「まさか、エロいことしてるんじゃないでしょーねっ?! 兄さん、まだ夜には早いわよぉぉお…!」 「「ッッ!!」」 みるみるうちに紅潮していく頬の熱を見られまいと、二人は背を向け合って。 …その数秒後、階段を勢い良く駆け上がってきたユカリが、 離れた位置に座っている二人を見るや否や、何ともつまらなさそうに『あれぇ?』と呟いたのは…言うまでもなく。 ------------ あの後、夜ご飯をご馳走になってから帰宅した雅也は、小・中学校のアルバムを引き出していた。 卒業アルバムによくありがちなネタ、『将来の夢』。 昔の自分は、何を思っていたのか…。 「中学は…まともに書いてねェな。 …『暗闇』」 『何も、見えない』 その七文字が、いやに目を引いた。 …母さんに、強い恨みを抱いていた頃…か。 「そう考えると…、 夕映に逢うことがなかったら、自分はどうなってたのかなんて…想像したくもねぇな」 もしかしたら、…俺が母さんを…、って。
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