冒頭

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今私は電車に揺られている。 寝ていればあっという間に着いてしまうのに…何て私の身体は不便なのだろう。 仕方がないので流れていく景色をぼ~っと見ている。 ちょうど冬の夕方三時ともなれば夕日が綺麗に地面に反射するだろう。 今日は幾分雲が掛かっていて、雲の隙間から地面に伸びる放射状の光がキラキラしている。 今までこんなにゆっくり空を見たことがあるだろうか。 しばらくすると夕日が雲から顔を出し、眩しさのあまり顔を下へと降ろした。 見慣れているはずの風景。だがそこは夕日に照らされて、違う世界のように見えた。 まるで自分の犯してきた過去を、この景色は洗い流してくれているようにも見えた。 ふと、トンネルに入り自分の顔が目の前に映る。 今の自分はなんてヒドい顔をしているのだろう。先ほど洗い流してくれてると思ったことは錯覚だということに、無理矢理にもきづかされた気がした。 昔には戻れない。 この電車が進むように…。 窓を開けて逃げることなんて尚更。 ようやく気心の知れた、懐かしい景色が私の目を輝かせる。 やっぱり地元の風景は落ち着く。 そんな気持ちを持って、私はゆっくりと駅を出ていった。 辺りはすでに暗くなっていた。
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