序章~漂流~

3/13
前へ
/407ページ
次へ
「…今日は用心した方が良いな」 マンションの一室。 何やら呪文めいた物が書いてある紙を見つめながら呟く青年が1人。 ー池上 幸谷である。 物静かそうでいて、とても大人びた雰囲気を醸し出す青年であり、その容姿はかなりのものであった。 キャンプの道具を用意する途中、占いの用紙を見つけ占ってみた所、最悪の結果が出てしまい、若干気が滅入っていた。 「お~い。もう積み込みは終わったぞ。…どうかしたのか?」 そう言いながら現れたのは武智 宏隆。 幸谷の家の近くに住んでいる親友で、今日、キャンプに行くメンバーの1人だ。 高校時代に多少やんちゃをしていた事もあってか、なかなかに男らしい体躯の持ち主であった。 訝しげな視線を寄せてくる宏隆に対して、幸谷は首を横に振った。 今日は楽しいキャンプ。 幸谷としても、占いの結果如きで、その雰囲気を壊したくは無かった。 「…そうか。なら良いけどな」 そう言いながら、少し幸谷を睨んでいた宏隆だったが、ポケットから携帯を取りだし、時間を確認するとこう言った。 「…もう時間だな。用意も終わった事だし、サッサと行こうぜ!」 「ああ。そうだな」 幸谷はそう答えながら紙をゴミ箱に捨てる。 「それにしても、フリーターのお前がキャンピングカーを所有してる何てな~。どうやって買ったんだ?」 そう言って笑う宏隆のに幸谷はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。 「…企業秘密だ」 宏隆は顔をひきつらせると、「そうか」とだけ返した。 幸谷は空を見上げる。 雲一つ無い晴天。 絶好のキャンプ日和といった感じだ。 「んじゃ、俺は先に乗っておくぜ?」 そう言って、車に向かおうとする宏隆を幸谷は呼び止める。 「ちょっと待て。これも乗せといてくれ」 幸谷はそう言うと、長さが1m以上ある細長い筒状の物を宏隆に渡す。 持てばなかなかの重さがあるそれを見回した宏隆は幸谷に聞く。 「…何だこれ??」 それに対して幸谷は、またニヤリと不気味な笑みを浮かべてこう答えた。 「ただの釣り竿だ」
/407ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2071人が本棚に入れています
本棚に追加