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「…今日は用心した方が良いな」
マンションの一室。
何やら呪文めいた物が書いてある紙を見つめながら呟く青年が1人。
ー池上 幸谷である。
物静かそうでいて、とても大人びた雰囲気を醸し出す青年であり、その容姿はかなりのものであった。
キャンプの道具を用意する途中、占いの用紙を見つけ占ってみた所、最悪の結果が出てしまい、若干気が滅入っていた。
「お~い。もう積み込みは終わったぞ。…どうかしたのか?」
そう言いながら現れたのは武智 宏隆。
幸谷の家の近くに住んでいる親友で、今日、キャンプに行くメンバーの1人だ。
高校時代に多少やんちゃをしていた事もあってか、なかなかに男らしい体躯の持ち主であった。
訝しげな視線を寄せてくる宏隆に対して、幸谷は首を横に振った。
今日は楽しいキャンプ。
幸谷としても、占いの結果如きで、その雰囲気を壊したくは無かった。
「…そうか。なら良いけどな」
そう言いながら、少し幸谷を睨んでいた宏隆だったが、ポケットから携帯を取りだし、時間を確認するとこう言った。
「…もう時間だな。用意も終わった事だし、サッサと行こうぜ!」
「ああ。そうだな」
幸谷はそう答えながら紙をゴミ箱に捨てる。
「それにしても、フリーターのお前がキャンピングカーを所有してる何てな~。どうやって買ったんだ?」
そう言って笑う宏隆のに幸谷はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「…企業秘密だ」
宏隆は顔をひきつらせると、「そうか」とだけ返した。
幸谷は空を見上げる。
雲一つ無い晴天。
絶好のキャンプ日和といった感じだ。
「んじゃ、俺は先に乗っておくぜ?」
そう言って、車に向かおうとする宏隆を幸谷は呼び止める。
「ちょっと待て。これも乗せといてくれ」
幸谷はそう言うと、長さが1m以上ある細長い筒状の物を宏隆に渡す。
持てばなかなかの重さがあるそれを見回した宏隆は幸谷に聞く。
「…何だこれ??」
それに対して幸谷は、またニヤリと不気味な笑みを浮かべてこう答えた。
「ただの釣り竿だ」
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