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彼は確かに消えた。
しかし何故消えたのかは憶測でしか無く、理由は彼本人にしか解らない。
否、彼自身さえもどういう過程で消えようと思ったのか、その全ては把握出来てはいなかっただろう…。
「また考え事か紫蘭?」
「臣…」
声を掛けて来たのは恋人の森羅 臣。
臣は視線の先にある雪だるまに気付き、悲し気に笑っただけだった。
「臣、おいで…?」
臣を隣に座らせ、そっと臣を抱き締めて頭を撫でた。
「ごめんね…」
「何で謝るの紫蘭?」
「臣が悲しそうだったから」
臣の髪は少し硬く、まるで犬のようだ。
「……」
嗚呼、何処まで行っても貴方は消えないんですね。
貴方は私の世界を壊した。
貴方を得る代わりに私は全てを失った…。
「紫蘭、またあの人の事考えてる…」
私は苦笑し、また臣の頭を撫で始めた。
真っ白な髪は、柴犬のような肌触りだと言った。
私は一度も撫でた事が無い。
私があの時、幼く無ければ、この結果は迎えなかったかも知れない…。
「なぁ紫蘭」
「ん?」
「雪は雪女の涙なんだって」
「なら雪女はきっと綺麗なんだろうね」
ゆらゆらと雪は振り続けている。
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