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秋吉は、僕と同じ年とは思えなかった。
ずっとしっかりしていて、大人で、何よりも強かった。
僕は、すっかり秋吉の歩んできた人生に惚れた。
今では笑って話しているが、結婚せず一人で子どもを産んで育てるのは、並でない苦労があっただろう。
「苦労…したんだな。偉いよ、秋吉は。」
嘘でもお世辞でもなかった。心底思った言葉だった。
「…ありがと。やっぱり優しいね、桜井くんは。」
秋吉は、あの日と同じ笑顔で言った。
「…今度、陽人くんに会わせてくれないかな。見てみたいんだ。」
自然に口から出た言葉に、僕自信とても驚いた。
社交辞令なんかじゃない。
そんなもの知らない。
ただ、秋吉が守った、今もなお守り続けている生命を見てみたいと思った。
「えっ、うん!もちろん!」
秋吉は嬉しそうだった。
子どものことを心から認めてもらったことは、少なかっただろう。
表面上は理解あるふりをしても、それを本気で思った人なんて、そんなにいなかっただろう。
なぜならそれは、秋吉が未婚で若い母親だから…。
世の中に若いシングルマザーは増えている。
だからといって、それが当たり前なわけじゃない。
社会に出ると否定され、陰で言われるのがオチだろう。
そんな中でも、秋吉は必死で生きているんだ。
僕のようにダラダラ生きている奴もいる。
彼女と子どもを世の中で認められないなんて非情だ。
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