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「木原さん、お願いがあるんですけど。」
木原さんは僕を見てニヤリと笑った。
「珍しいな。」
木原さんは僕より半年前からバイトをしている先輩だ。
僕たちは、普段、仕事の話以外、ほとんど会話をしない。
木原さんから飲みに誘われたことは何度かあったが、僕は行かなかった。
そんな僕が声をかけたことは、木原さんにとっては、さぞ驚きの出来事だっただろう。
「夜勤なんですけど、シフトから僕を外してもらえませんか?日中は毎日でもやりますから。」
木原さんは、砂利の入った大きな袋を担いだ。
「…彼女でもできたか。」
僕も袋を担いで木原さんの隣を歩く。
「そんなんじゃないです。」
ここの現場監督は、『手を止めるな!』が口癖で、周囲を見回しては怒鳴り声を上げる。
だから僕たちは、話をしながらでも動いた。
「ま、別にいいけどよ。お前にも少しは積極性が出てきた証拠だろうよ。」
「…すみません。」
木原さんは、袋の中身を大きな穴の中に入れた。
「謝ることなんかねぇ。どうせ俺は暇だからな。代わってやるよ。そのかわり…。」
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