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こうして僕と陽人が一緒に過ごす、初めての夜がやってきた。
夕方でバイトが終わった僕は、そのまま電車に乗り、陽人がいる保育園に向かった。
門を通り、玄関に行くと、あのときの保育士が立っていた。
「あら?あなたは確か…。」
「…こ、こんにちわ。あの、秋吉さんから頼まれてるんですけど…。あ、こ、これ…。」
僕は、何と話していいかわからず、とりあえず秋吉に言われたとおり、健康保険証を見せた。
「あなたが桜井さんね?陽人くんのお母さんから話は聞いています。」
保育士は、僕に健康保険証を手渡すと、保育園の中に向かって叫んだ。
「陽人くーん。お迎えよー!」
パタパタと足音がして、陽人が顔を出した。
「こんにちわ、陽人。」
「こんにちわ、サクライ。」
陽人は僕のことを『サクライ』と呼んだ。
秋吉が『桜井くん』と呼ぶから、それを聞いていたんだろう。
3歳の子どもに、名字で(しかも呼び捨て)呼ばれるのは、何だかくすぐったいような、照れ臭いような、変な気分だった。
僕たちは手を繋いで帰った。
知らない人が見ると、本当の親子のように見えるだろうか。
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