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ある日、クジラがいなくなった。
待てども待てども現れず、その日は仕方なしに城へと戻った。
次の日も次の日も会えなかった。
そして、数日後。
久しく見なかったクジラに会えた。
しかもそのクジラが話しかけてきた。
ちっぽけな自分など気付かれてもいないだろうと思っていた。
甲虫はひどく慌て、そして喜んだ。
クジラは言った。
貴方がうらやましい、と。
甲虫は、こおりついた。どうして、どうしてこんなにちっぽけで色だって良くない自分をうらやましがるのかと。
くじらは言った。
海は冷たい。冷たくて、暗くて、黒い。
うらやましい、と。陸にいる貴方がうらやましい、と。
そう言って、くじらは帰っていった。
甲虫は日が暮れるまでその場で固まっていた。
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