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そしてまた、くじらが姿を見せなくなってしばらくたったある日。
ありの兵隊から、くじらの死体がうちあげられたとの報告があった。
甲虫は即座に海岸に向かった。
そして、そこには。
腹を傷だらけにして、死んでいるくじらがいた。
あれほどあこがれたくじらが、そこにいた。
死んでもなお力強く、そして美しかった。
ふと、いつもくじらがいた海岸を見た。
そこには………とてもくじらがいる事ができないような、浅い、ごつごつした岩の海底が、引き潮により現れていた。
甲虫は理解した。
何故、私はあのクジラにあそこまであこがれたか。
あのクジラは、たとえ自分が傷つこうが、死ぬほどの傷を負おうが、それでも陸を目指していた。
柔らかい腹から血が流し、傷口を塩水でむしばみ、自分が陸では生きられないと知りながら、それでも。
それでも、クジラは陸を目指したのだ。
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