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町並みを、きらきらと輝くイルミネーションが飾ります。
いつもはポップスやHip Hopやらをじゃかじゃかとかき鳴らしているスピーカーも、今日だけは軽快なクリスマスソングで、街を賑わします。
そんな中を笑顔で歩く家族連れやここぞとばかりに気合いを入れるバカップル。
そして、ケーキを持ってジングルベルを口ずさむお父さん。
街中の人々が、聖なる夜の名の下に幸せを謳歌する、今日はクリスマスの夜。
こんな素敵な夜に、あまりにも似つかわしくない人物が歩いてきます。
「寒い寒い寒い! こんな日にサンタのバイトとか有り得ねえだろ! 早く帰って詩織里ちゃんとデートだデート♪」
髪はまるで三ヵ月使用した歯ブラシのようにボサボサで、拭おうともしない鼻水が、イルミネーションを反射していらん自己アピールをしています。
そんな風貌でニヤニヤ笑いながら歩く高校生くらいの少年。
非常に残念なお知らせですが、こいつがこの物語の主人公『十八禁児(とうやきんじ)』です。
今までサンタのバイトをしていたそうですが、与えていたのは間違い無く夢では無く、絶望か何かでしょう。
「今日はついに詩織里ちゃんと海水浴だ!水着だ水着だワッショーイ!」
その禁児が鼻の下を伸ばしながら、まるで阿波踊りを踊るゴリラのような動きで、ウッホウッホと歩き続けます。
どうやら、詩織里ちゃんと言うのは、いわゆるギャルゲーのキャラのようですね。
「ん? なんだありゃ」
その時、禁児がビルの隙間の暗がりを見て、何かに気付いて立ち止まります。
そこに見える小さな人影。
その主は、ふわふわとした亜麻色の髪を持つ8歳位の幼い少女。
ですが、その頭には猫の耳がついていたのです。
ふさふさの髪からちょこんと覗く小さな猫耳は、ショートケーキの上に飾られた苺のように可愛らしく見えました。
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