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白い少女と優しい少年
白い、白い部屋だった。
ただ、白いという印象を受ける部屋。
それは、病院の一室だから……というわけでは、なく。
いや、もちろんそれも理由には入るだろうが……違う。この部屋の白さは、そんな単純な色彩は関係ない。
恐らく、仮にこの病室が真っ黒に固められていたとしても……受ける印象は、いつだって白なのだろう。
……そんな事を考えながら、彼は今日もこの病室を訪れた。
白い部屋に。白の部屋に。
そして少年を迎えるのは、恐らく少年と同じくらいの年頃――17、8と言ったところだろうが――の、少女だった。
何も映していない瞳。
何も認識していない意識。
何も感じていない表情。
何の起伏もない、感情。
――そんな、およそ明らかに人としての……人らしい機能を、欠落させているような、少女。
その印象は、白。
突き抜けるように、深い白。
俗世に塗れるわけでもなく。
衆生に汚されるわけでもなく。
病院という、閉鎖的に隔離された施設に生まれたときから住んでいる彼女だからこそ持ち得る……清潔な、清楚な、純憐な……けれど明らかに病的な、白。
その少女は、やってきた少年をその虚ろな瞳に捉えるなり、首を小さく傾げて、言った。
「また……来たの……?」
首を傾げる仕草に合わせて、長い、長い黒髪が、サラサラと流れた。
そんな彼女に、少年は答えた。
黒フレームの丸眼鏡に童顔の、いかにも優しい風貌をした彼は、やっぱり優しく笑って。
「うん、また来たよ。迷惑だったかな?」
問い掛けに、少女は少しだけ悩む素振りを見せて……言った。
「ううん……嬉しい」
そうして、ぎこちなく。
けれど、確かに。
白の少女は、ニコリと。
小さく、本当に小さく……けれど花が咲いたように、笑った。
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