白い少女と優しい少年

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その少年、網風月都(あみかぜ つきと)は、入院こそしているものの不治の病を患っているとか、そんな深刻なものではない。 ただ、肺炎をこじらせてしばらく入院をしているだけだ。 それに対し少女、待春茜(まつはる あかね)は致命的に、深刻に、真実間違いなく、不治の病の類にかかっている。 簡単に、端的に述べるのなら、それは心臓病。 より事細かに告げたところで、医学的な知識の無いものには無駄にしかなり得ない故、割愛する。 ともあれ、現在の医学では治らない心臓病……それが、茜の現状だと理解すれば良い。 そんな彼女は早い段階で親に見捨てられ、入院に必要な資金だけを貰っている状況。 その境遇故か、彼女はひどく感情を欠落していた。 そう、彼と――網風月都と、出会うまでは。 「茜、来週は花見祭りらしいよ?知ってた?」 優しく、優しく語りかける月都。 対して茜は、ちょこん、と首を傾げた。 ――彼女は今まで、人と接する機会が少なかった。 故に、コミュニケーションが苦手なのだ。 とはいえ、そんなところが放っておけない理由ではあるのだが。 「うん、何かね。病院側がやってくれるお祭りで、ちゃんと屋台とかも来るみたいだよ?」 まあ病院だから、あんまり派手な企画は無いみたいだけどね、と笑う月都。 「…………?」 よくわからないが、月都が笑っているのが嬉しいのか一緒に微笑む茜。 首を傾げる仕草が可愛くて、サラサラと流れる髪の毛を眺めながらも、月都はベッドの上に座っている少女に問い掛けた。 「そんなわけだからさ、茜。僕と一緒に、屋台を回ろうよ」 ね?と微笑みかける、月都。 信じられないほどに優しい笑顔に、 「……うんっ!」 茜もやはり、汚れのない、白い、白い笑顔で、微笑んだ。
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