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「――良かったね、茜。金魚とれて」
若干笑みを引きつらせながらも笑いかける月都。
「うんっ、嬉しい……」
対して、小さな水槽に入った金魚を両手に抱えてご満悦な茜。
病室に持っていけることを考慮してか、水槽まで貰えたのだ。それで百円とは実に良心的だが、それも十七回もやれば財布には優しくない。
ともあれ、嬉しそうに笑う茜を見ていると『まあ良いか』などと思ってしまうから困りものだが。
――と、不意に良い匂いを感じ、そちらへと視線を向ける月都。
「あ、イカ焼きだ!」
何を隠そう、月都はイカ焼きが大好きである。
「茜、ちょっとだけここで待ってて?」
近くにあったベンチを指差しながら、そう告げる月都。
「うん、わかった」
素直にコクンと頷いて、ベンチにちょこんと座る茜。
それを見届けて、イカ焼き屋へと駆ける月都。
「イカ焼き、二本下さい」
「あいよっ、二百円ね」
筋肉質な男が、やはり良心的価格を告げる。
若干寒くなってきた財布から硬貨を手渡し、イカ焼きを受け取り、ベンチに戻る。
「お待たせ茜」
ぼうっ、と金魚を眺めていた茜に、イカ焼きを差し出す月都。
「はいこれ、茜の分。おいしいよ……って、」
今更、茜の両手が水槽で塞がっている事に気付く月都。
片手で支えると水槽が落ちるやもしれないし、と月都が悩んでいる合間に、
「――あむっ」
おいしそうな匂いに釣られてか、かぷりとイカ焼きを頬張る茜……もちろん、そのイカ焼きは月都が持ったままで。
「ちょ、ちょっと茜!?」
さすがの月都も焦るが、茜は不思議そうに首を傾げているだけだ。
いやむしろ、『食べちゃダメなの?』と潤んだ瞳で訴えている。
「う……まあ、良いか」
諦めと共に月都が告げると、
「あむっ……ん~」
イカ焼きを頬張っては、ご満悦な様子の茜。
周囲からは「やだ、かわい~」などという野次が響いていたが、月都は気にせず、自分もイカ焼きを食べることにした……
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