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霞む視界にぼんやりと映る、一つの影。
それは徐々に輪郭を持ち始め、見慣れた姿を形作っていく。
思った通り、そこには千倉がいて。
よかった、無事だったんだ。
大したケガはなさそうな様子にほっと胸を撫で下ろす。
その時ぽつりと、何かが頬を濡らした。
(――――泣い、てる……?)
千倉が、泣いている。
涙をボロボロ零しながら。
千倉、どうしたんだよ。
どうして泣いてるんだ?
どうしてそんなに悲しそうなんだ?
それをどうにか拭ってやりたくて、残ったわずかな力を全てかき集めても。
左腕をほんの少し浮かせることしか出来ないのが、歯痒かった。
これじゃあ届かない。
「泣く、な……ょ」
声は出ただろうか。
千倉に届いただろうか。
確認しようにも、音がほとんど頭に入ってこない。
視界に霧がかかったように霞んでいく。
千倉の姿がまたぼやけていく。
待ってくれ、まだ。
まだ、
伝えたいことが山ほどあるのに。
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