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体を打ちつける強い雨と、天が怒っているかのような激しい雷が大地を揺らした。
鏡を覗いてみると腹部から血を流して苦しそうにしている愛と、膝を狂ったように震わせて立っている俺がいた………。
俺の右手には、血が付いた鋭利な刃物。
地面に落ちた血が、雨で流れていく。
血に染まった心は、流れてはくれない。
「…俺は何てをことしてしまっ…たん…だ。
お、俺が、さ……刺してしまったのか?
おかしいだろ……おい?
お、おお俺がし…し、しし死ぬつもりだったのに、何で……何で、愛が……ここ…こんなことに」
頭が真っ白になっているせいか雨が遠く聞こえる。
意識を失いそうになるが、地面を揺らす激しい雷鳴が俺を現実に引き戻す。
これは夢じゃない。
愛が倒れている。
これは現実だ。
現実なんだ。
愛は俺なんかよりもっと苦しくて辛かったのかもしれない。それなのに俺は
愛との思い出が涙になって溢れだしてくる。
「クッ……ウグ、俺が愛の、ヒックッ……苦しみに、グッ…気づくことができたら、こ、こんな結果にならなかったのに。
…愛
お、ヒック、お……、俺やっぱり死ぬよ」
冷たく鋭い光を放つ刃物を自分の方に向けた。
心臓に刺すか、腹に刺すか。
…唾を飲みこんだ。
…ッ!
その時、今にも枯れて無くなりそうな声が聞こえてきた。
愛 『…メー、ダメー…
…ハァ…ハァ、死ん……だめ
死んじゃだめ――』
愛の悲痛な叫びが響く。
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