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男はその日、死を決意した。
昼間の大通りをスーツを来て歩く男だが、職は無い。
――リストラ
下げたくも無い頭を下げ、休日の約束を反故にし、数十年会社のために働き続けた男に対しての会社の答えがそれだった。
元々冷めきってしまっていた夫婦仲は男のリストラをきっかけとして破局、四十五歳にして妻と子は家を去った。
数時間前の出来事である。
職をもち、子に恵まれ、それなりに必死に生き抜いてきた男の人生は、たった一つの衝撃で脆くも崩れ落ちてしまったのだ。
同時に、男の中で何かが切れる。
目には決して見えぬ、しかし誰もが必ず持ちえる大切なモノ。
すなわち、生への執着
脈絡もなく予兆もなく、それは元々そうであったかのように男と世界を切り離した。
男はそれなりに妻と子を愛していた。愛情表現が上手いわけでもなく、とりたてて給料が良いわけでもない。
けれど、男は家族を大切に思えばこそ必死に働いたのだ。
その末の結末がコレだった。
結局、妻と自分をつなぎ止めていたのは愛情ではなく金だという事実を突きつけられ、自分なりに与えていたものは何一つ妻からは受け取れなかった。
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