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「それ、食べないなら俺にくれないかい?」
パフェに一口も手をつけず、ぼんやりとアイスクリームをつついていた男に、初対面の若者はまるで旧知の仲とでもいうように気さくに話しかけ、了承の意味で頷いた男からパフェを奪った。
若者は嬉しそうにパフェを手元に引き寄せ、スプーンに不相応な量のクリームをすくうと、満面の笑みで口の中に放り込む。
「んーーっ!!旨い!!この一口のために生きてるっていうか!もう!!」
まるで酒を飲むようにパフェを食らう青年を見つめながら、こんなものがそんなに美味しいのかと男は思う。
全身を黒で統一したスーツに、白髪が異様に映えている。夜の街で見れば誰もがホストと間違えるだろう。
そんな男が、子供のようにはしゃぎながらパフェを頬張る姿は微笑ましくもあり、同時に憎らしくもあった。
「ん?オッサンもやっぱり食う?」
自分を見つめる視線に気付いたのか、若者は控えめにパフェを前に出す。どう考えても譲る気があるとは思えない。
「いや、私は良いよ。あまり食べたくもないしね」
そっか、とだけ相槌をうつと、再び若者はパフェに取りかかる。
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