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全てを失い、最後の食事と喫茶店に入り、食べたくもないパフェを頼み、挙げ句の果てには初対面の若者にそれを奪われる。
それも悪くはないと思う自分自身が惨めでもあり、無意味に誇らしくもあった。
何をどう考えても、どうせ自分はもう死ぬのだから、という遠くない未来を見据えて。
「やっぱりパフェってのはさ」
食べることに夢中になっていた若者は唐突に口を開いた。
男は少し驚いた。青年の行為はタカりのようなものだと思っていたし、この後金銭を要求される覚悟だって出来ていたのだ。よもや向こうから会話を振ってくるなどとは微塵も予想していなかったのである。
「最初のチェリーが肝心なわけだ。チョコレートパフェだろうがヨーグルトパフェだろうが、それだけは間違っちゃいけない。始まりはチェリー、よく考えりゃ当たり前だよな」
かはは、と笑いながら既に種だけになり、紙ナプキンに転がされたチェリーをつつく若者。当たり前の事だが男はワケが分からない。
「チェリーで始まるからこそ、その後に期待が持てる。多少味に違いはあるが、同じ果物なんだから砂糖と塩ほどの違いはチェリーにはねぇ。それこそチェリーがチェリーたる証だ」
満足げにそう語るが、聞かされている男は更にワケが分からない。男には若者がなんの話をしているかすら理解出来なかった。
それ程に若者の話は突飛過ぎている。
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