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3月24日。曇り――
(あぁああぁぁ、あ、いや、だ………!!)(あ、嗟、この、事、だったんだ…)(大家さん、が、言ってた…こと…!)
がらんとした、アパートの1室。
まだ家具や家電も揃わない部屋のフローリングの床に、桜色の羽毛布団の塊が転がっていた。
その塊はよく見ると布団1枚にしては大き過ぎ、その塊の中からかちかちと人間が歯を鳴らしている様な音がする事から、中に人がくるまっている事が判る。
その中にくるまった侭、両手で耳を塞ぎ歯の根を震わせているのは、この部屋の主人の女だ。
――名は、響子。この春大学生になる、田舎から出て来たばかりの娘だ。
親は娘が家元から離れる事を不安に思っていたし、響子自身も、郊外とはいえ、見知らぬ都会で独り暮らすのは、とても勇気の要る事だった。
しかし、それでも響子には叶えたい夢が在った。だからたった独りで此処で暮らす事を決意した。なのに――
(こんな、の………)
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