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* * *
「――いやいや、話は聞いていましたけどね、ひ。
まさかこんな若い娘さんだなんてね。ひひ」
気味の悪い笑い方をする大家に迎え入れられ、このアパートへの入居を果たしたのは、今からつい8時間程前の事だ。
――スクラップ マンション――
大家に勝るとも劣るとも言えない位には、このアパートの名前も奇妙だった。
まず、マンションと呼べる程の風貌ではない。
そして、スクラップと言う程荒れてもいない。
至って普通の、いや、小綺麗な位の賃貸アパートだ。
独り暮らしの学生によく似合いそうな、こじんまりとして、清潔そうなアパート。それが、響子と、その両親の印象だった。
「いや、ね。
この時期多いんですよね。ひひ。
…入居者の出入りが。ひひひ」
新しい部屋に案内して貰う為に、響子とその大家の老人が並んで歩いていると、不意に大家が口を開いた。
「…そうなんですか?」
きょとん、とした表情を浮かべて響子が尋ね返すと、大家は軽く頷いてから、再び口を開いた。
「この時期は生活環境が変わる方が多いですから。ひひ…そちらさんみたいに」
「そう…です、ね」
大方予想のついた答えに響子は少しばかり気のない返事を返しながら、手にしていた大きなボストンバッグの持ち手を強く握り締めた。
この大家はどうも苦手だ。今後も好きになれそうにない。
そんな事を考えている内に、不意に大家が、ある一室の前で立ち止まった。404号室――響子の新しい住居だ。
「こちらですよ、高野さん」
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