―†プロローグ‡―

2/9
1184人が本棚に入れています
本棚に追加
/581ページ
────ポツ、ポツ と、外では雨が降りだした。 家の中では相変わらずの雰囲気が漂っている。 8畳のリビングに、大型のTVに大型のソファー。姉貴が引っ越し祝いに親父に買ってもらった物だ。 そのTVとソファーの間には木製の長方形の机。いつものように机の上は雑誌が無造作に置かれている。 床には俺が畳んだばかりの洗濯物。 その2m程先に落ちている女性用下着や白いブラウスやらは、つい10分ほど前に帰ってきた姉貴のものだ。 姉貴はここでそれらを脱ぎ捨て、今シャワーを浴びている。 「もう少し女らしくしろよ……」 最近では口癖になっている言葉だ。 他の男から見たら羨ましいかもしれない話だが、家族の裸体ほど目の前にして萎える物は恐らくないだろう。 その姉貴は4月から会社に勤め始めた。 会社と言っても小さなもので、印刷会社とは名ばかりの実に面白い所だと姉貴はよく話す。 まぁあの姉貴の事だ。面白くなければ4ヶ月も同じ仕事が続かないだろうが。 そう思いながら俺は冷蔵庫からアイスコーヒーを手にとり、キッチンの戸棚(そう言えばこの戸棚も親父からの引っ越し祝いだった)から2人分のグラスを持ってきた。 姉貴の分も入れてやろうと思ったからだ。 まもなくして我が姉、上條流奈が風呂から出てきた。 鼻歌混じりで廊下を挟んだ正面のドアを開けた。どうやらトイレらしい。 「またあの格好かよ;」 一瞬見た姉貴は、 髪はボサボサ、下着は付けているものの、後はタオルを首から下げているだけだった。 夏だから暑いのもわからなくはないが。 「ふーっ。お疲れあたし!」 出て来た姉貴の第一声だった。 そして机の上に置いてある煎れたばかりのアイスコーヒーを、何も言わずに一気に飲み干す。 「ぷはーっ。お疲れ!」 何がお疲れなんだよ。と口に出す前に、姉貴は俺の分のアイスコーヒーまで飲みだした。 俺は諦めて冷蔵庫までアイスコーヒーを取りに行く。 「ふーっ。流亜あんた今日補習じゃないの?」 2杯目のアイスコーヒーを飲み干した姉貴が唐突に言った。 「3時からだっつーの。姉貴こそなんで帰って来たんだよ。会社は?」 「なんか社長が熱出したみたいでさ、昼から全員帰宅!面白い会社だろ」 何が面白いものか。会社の経営が心配になってくるよ。 「まぁいいけど。俺昼飯外で食べて来るからそのついでに補習行ってくる。 帰りは夕方ぐらいになるよ」
/581ページ

最初のコメントを投稿しよう!