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男はそのまま女の方へ歩み寄って来た
「途中で君を見失ってしまった。
あんなに殺気立った人間は初めて見た」
聞くに、男は女の後を付けていたようだ
男は膝を着く女の口を塞いでいた縄を外す――
「――何故生かした!!!!!!」
しかし女の口から漏れたのは、男にとって不思議でならないものだった
「何故……?君は何を……」
「私は死を覚悟していた!!
あいつらは私が殺す筈だった!!
助けてくれと頼んだ覚えは無い!!!!」
女は裏路地に響き渡る声量で叫んだ
「……助けたのは私が勝手にした事だ。
こいつらの急所は外しておいた。魔法協会に引き渡そうと思――」
「――――っざけるな!!!!」
女は涙を流して自らの決意の強さを示した
そのあまりに悲しい涙に、男は自分の心が傷むのを感じた
「……命があって……それでいいじゃないか。
君が奴らを殺す事を、果たして亡くなった弟さんは望むのか?」
「……まれ……だま……れ……」
男は女の頭を撫でた
そして、女は男の腕の中で静かに泣いた
「……君は涙を流す事が出来る。
今度は、喜びの涙を流すために生きてみたらどうだい?」
「……生き恥を……っ…………晒せと……言うのか…………」
ようやくまともに言葉を返してくれた女に男は微笑んだ
「今はそう思うかもしれない。
だが、いつかきっと生きていてよかったと思える日がやって来る。
どうだろう?君の命、私に預けてみないか?」
女は啜り泣きを続け、男の言葉に反応する様子は無い
「私も1人だ。
私は明日の昼過ぎ、表通りにある宿を出る。もし君が私と共に来るのなら、一緒に世界中を旅しようじゃないか」
それから数分、男は黙って女の頭を撫で続けた
しかししばらくして、女は男の手を払いのけ、暗い路地裏へと消えて行った
「名を聞く事すら出来なかったな……やれやれ」
男は踵を返し、言葉通り宿へと歩を進めた
――そして翌日の正午
自らをレダと名乗る女が、しっかり旅支度を整えた状態で宿のフロントに立っていた
レダはそっぽを向いて
「私を1人にした責任、取ってもらう」
と言ったが、男は豪快に笑ってレダを抱き締めた
――これがシドルニアとレダの出会いだった
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