1184人が本棚に入れています
本棚に追加
「?レダ?お前の事を呼んでいるぞ?」
……まったく……
余計なお世話と言うべきか……
しかしこの場合、見るからに怪しい男を無視した私か、そんな私の気持ちに気付かず呼び止めた師匠か、悪いのはどちらなのだろう
――どちらにせよ、関わらなくてはいけなくなってしまったようだ
「……私か?」
私は手招きする男に近寄り、声を掛ける
黒いフード付きローブを着た男は、フードから覗かせた青白い唇をにやつかせている
「お姉さん、気をつけた方がいい」
「なんだ?どうした?」
師匠も私の隣まで歩み寄って来た
「気をつける、と言うと?」
「右手に関わる災いに巻き込まれる相が出てる。このままだと右手が無くなってしまうかもしれない。ケケケ」
戯言を――――
「な、何!?本当かそれは!」
何故か食い付いたのは師匠だ
純粋と言うか騙されやすい人と言うか……
「おっと、しかしご安心を。
この一見何でもない籠手。なんと名高い魔導師達の守りの加護が掛けられているのです」
「ぉ、おぉーっ!!」
どう見てもただの錆びた籠手に対し、驚きの声を上げる我が師の隣で私は呆れていた
いや。馬鹿な男に声を掛けてしまった自分に、だ
「名高い魔導師達と言うのは?」
「え;
そ、それは……な、なんとあの賢者バリーバ・セロヴィクスだったり、呪術師アチャラ・ヤシャナータだとか言う噂も!」
私の質問に明らかに動揺した男だったが、師匠は再び驚きの声を上げた
「す、凄い代物だ!」
「そう。しかも今ならたったの2万マルティ!
お姉さんの災いも避けられるし、破格のお値段で提供中だ!
どうだおっさん!?」
なんと頭の悪い悪徳商法だろう
そして最初のミステリアスな雰囲気はいずこへ
「に、2万マルティ!?それは安い!」
――そしてこの人も
「ぐぅ……;しかし2万か……
手持ちでは足りんな;」
「だったら1万マルティでどうだ!?」
「一気に半額か。怪しいな貴様」
私の言葉に、男は一瞬肩を震わせた
「な、何を言うんだいお嬢ちゃん;」
「そうだぞレダ。お前の右手の災いを退けてくれようと言う親切な人に何を――」
「でしたら師匠」
私は男の手から錆びた籠手を引ったくり、空中へ投げ剣を抜いた
「あ、ぉ、お前何を――――」
「ハァァッッッ!!!!」
私が剣を垂直に下ろすと、想像していた以上に籠手は容易く斬れた
最初のコメントを投稿しよう!