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「ぁ、ぁぁー……」
茫然とする男に追い討ちを掛けるように、私は剣を収めた後睨み付けた
「これほど脆い籠手で、私の右手の災難が防げると言うのか?」
「………………;」
男は黙って私を申し訳なさそうに見つめている
「なんだ?どういう事だレダ?」
そしてこの人も同じく私を見ている
――困惑の眼差しで
「いいですか師匠。
我々は――もといあなたは、この男の下等な罠に危うく引っ掛かる所だったのです。
今の籠手は、ヤシャナータやセロヴィクス、高名な魔導師達の加護なんて掛かっていない、ただの錆びた籠手です」
言わばガラクタですよ、と最後に言い放つと、師匠は更に困ったように混乱の表情に変わった
「いやしかしだな……;
見ず知らずの他人を、それも今し方出会った人をそう簡単に疑うのは――」
「すみません!!!!」
突然男が膝を着いたため、師匠を説得する時間が省けた
「その人の言う通りです!騙そうとして、本当にすみませんでした!!」
「……もう少し相手と方法を選ぶべきだったな外道」
「外道」と言う言葉を聞き、師匠は私と男を交互に見ると
「じゃあ本当……なのか?;」
と呟いた
「……本当です……
母が疫病で……金が必要だったんです……」
――疫病?
「まさかパラゾーンとかいうものか?」
パラゾーン?
と首を傾げる師匠に、昨日酒場で得た情報だと告げる
「私もよくわかりませんが……
なんでも、今南の大陸アンリーンの一部の地域でひどい流行病があるそうで……」
「はい……まだ命に別状のあった患者はいないのですが……
やっぱり心配で……」
「……だが本当なのか?」
今し方私達を騙そうとしていた男の言葉など、信じる事など出来ない
母が病気だと言うのも、同情を誘うための偽りなのかもしれない
「本当です!
母が居るのはブルアイ村!
水の大樹から北東に12キロ、龍人族達の里とモギル王国に次ぐ、大樹に3番目に近い村です!
他に何を言えば信じてもらえ――――」
「いやいい。君を信じる」
必死に訴える男を制して、師匠が優しく微笑んだ
「レダ。人を疑い過ぎるのはお前の悪い癖だ。
この目は嘘をついている目じゃない」
「申し訳ありません……」
師匠にこう言われては仕方ない
確かに私は少々人間不信の気がある
しかし過去が過去なのだ
その気持ちは拭えない
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