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「金はいくら必要なんだ?」
「え!?」
男と私の声が揃った
いや、そんな事はどうでもいい――師匠は今何と……?;
「正気ですか師匠!そこまでする義理は無いでしょう!?
旅費もただでさえ少ないと言うのに!」
私は怒鳴った
当然だ
師匠には失礼だが、これでは義理や人情を通り越していいカモだ
「問題ない。少ないが5千マルティほどなら……」
「そんな――そんな事は出来ません!
俺はあなた達を騙そうとしました!」
さすがに男も否定的な態度をとっている
「だが君をそうさせたのは君の母親の病気だ。
ならばこういうのはどうだろう?
君の母君の病気が治った時、返してくれればいい」
「師匠!そんな根拠の無い約束は――それにパラゾーンは現時点で不治の病です!
お金があってもどうにも――」
「レダ。お前には母親が居るか」
!?突然どうしたというのだ
「……師匠はご存知でしょう」
そう
私には2年前まで弟以外の親族が居なかった
だがその弟も2年前のあの雨の日、殺された……
その事は師匠も知っているはずなのにどうして…………
「……私にも母親は居ない。
体が弱く、私を産んで数分後に亡くなってしまったそうだ。
ゆえに私は自分の母の顔さえ覚えていない。
その温もりも、愛情も、何もわからない」
私は膝を着く男の前で寂しげな表情を見せる師匠を、その隣で見下ろしていた
しゃがみ込んだ師匠の横顔は、今まで見た事の無い顔だった
「……君に母親と言うかけがえのない人を亡くしてほしくない。
だから、行ってあげなさい。近くに居てあげなさい」
「で、でも……」
――まったく……
「いいから行くのだ。
大切な人を亡くす悲しみを……師匠と私は知っている」
「あ、ありがとうございます!!」
私の言葉の後、男は頭を地に着けた
私もどうかしているな……
「この御恩は絶対忘れません!!
あなた方のお名前を是非教えていただけませんか!?」
「そんなものはいいからさっさと――」
「私はシドルニア。こっちは相棒のレダだ」
「師匠!?」
それに相棒?;
「シドルニアさんにレダさん。
必ず恩返しします!本当にありがとうございました!」
男は師匠から金の入った巾着袋を受け取ると、大通りを駆けていった
「さて……」
「……………………」
立ち上がった師匠に、私は文句の一つも言えなかった
妙に輝いていたからだ
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