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ネオン輝く雑踏を抜けて、ケルイオンの東部、スラムに程近い場所にそこはあった。
看板を掲げている訳でもなく、それどころか人の住んでいる気配すらもないただの廃ビル。
少しばかり気後れしながらも、扉をたたいた。
一秒、二秒と経過し、居ないのか? と首を傾げたその時、ようやく返事があった。
「はい。ソールデバイス屋。本日は何の御用で?」
気だるげな男の声。そしてその声の主も負けず劣らず気だるげに、目を細めザックスを見つめている。
身長は百八十前後、おそらく年は二十代後半。整った顔立ちだが、その気だるげな雰囲気が彼の評価を二割程下げていた。
「あんたがフレッドさん?」
「ん?・・・ああ、そうだが。坊主はどっから来たんだ?さすがにこんな時間帯に、この辺りぶらつくのは、まだ早い年頃だろ」
訝しがるフレッドに、ザックスはマスターからの手紙を渡す。
それを受け取って、軽く流し読みすると、フレッドは雰囲気を一変させた。
軽薄な若者という印象から一転、歴戦の勇士たるザックスにすら、少し身構えさせるほどの雰囲気に。
それだけでザックスは悟る。相手が凄腕の職人だと。
「なるほど。その年で闘士か。それでこっちにねぇ、レイランドのおっさんも、業が深いというか、何というべきか、罪滅ぼしのつもりかねぇ」
「ん?どういう意味だよそれ」
ため息をついて、一人ぶつくさと呟くフレッドにザックスは問い掛けるが、フレッドは手を振り、気にするなと言わんばかりに、ビルのなかにザックスを招き入れた。
「とりあえず座れ、飲み物はミルクでいいか?」
「別にブラックだって飲めるさ」
「はっ、ませたガキだ」
粗暴な口調だったが、ザックス自身、気にはならなかった。確かに客に接する態度ではないが、彼にはそれを許容させる何かがある。それが、カリスマと呼ばれるものなのか、それとも職人の持つ気質なのかは、判別できなかったが。
「ほらよ」
声と同時に黒々とした液体を満たしたカップが置かれた。そして置いた本人はザックスとテーブルを挟んで対称となるようにソファーに腰掛けた。
互いにコーヒーをすする。わずかな静寂が場を満たし、それを破るようにフレッドは本題に入った。
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