日独、現る。

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「静かに!」 授業前の教室。 教師の声が響いた。 「みなさんに新しいクラスメイトを紹介します。水野ハルヒ君です」 「こんにちは。水野です。」 無愛想に挨拶を済ますと少年は指定された窓際の席へと、痛々しい視線を感じながら向かった。 栗毛色のくせっ毛。灰色の目。白い肌。 ドイツと日本のハーフである少年は、席に着くと窓から校庭を眺める。 生まれてから幼少期まで過ごした日本の風景。 松が植えられ、コケの生えた岩の転がる校庭。そこに飛び交うスズメでさえ少年には新鮮に映る。 ドイツとはまるで違う風景に少年はしばし心を奪われた。 日本の湿ったぬるい六月の風を感じながら、晴れた空を見渡す。ドイツの空とは違う低い雲の多い空。 少年の名は水野ハルヒ。 今から一年前の梅雨の日。 少年は日本へやってきた。
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