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数日後、新調された水色のドレスを着て、マデリンは部屋の中心に座っていました。
「さ、クロノ、頼みますわよ」
「はい」
私は二・三呪文を唱えました。
これでマデリンは日の光を恐れず、部屋にかけた呪術によってマデリンを訪ねてくる者はいないでしょう。どちらも、一日限りですが。
「行きましょうか、マデリン」
私とマデリンは晴天の下街に出ました。
マデリンのはしゃぎ様はそれはそれは貴婦人が見ればはしたないと言えるほどのもので、あちらこちらの店を、花の間を飛び回る蝶の様に次々と見て回っていました。
呪術のおかげで、弱っていた足も健康な少女のそれになっています。
「まあ、あの帽子、素晴らしいわ。沢山のリボンがついて。水色だから、わたくしの今日のドレスに合うに違いないわ。こっちのレースの手袋も素敵ね。とても繊細な白レースだわ」
証拠が残るといけませんので買い物は出来ませんが、それでもマデリンは楽しそうに品々を見て回っていました。……楽しそうに。
「日の光がとても暖かいわ……こんなに素敵だったのね。本当に……暖かいわ」
マデリンは右手で顔にひさしを作り、空を仰いで言いました。
「……そうですね」
悪魔である私にとって、日の光は憎いものでしか無いはずですが、その時ばかりは、人間の言う日の光の暖かさが、ほんの少しだけ分かったような気がしたのです。
「……はあ。お腹が空いたわ」
はしゃぎまわったマデリンは直ぐに空腹を訴えました。こういうところは、歳相応らしいのです。
「わかりました。店に入りましょう」
店員に軽く暗示をかけ、私達は完全予約制の大人気のレストランに入ったのです。
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