第一話~仏蘭西のお嬢さんの話~

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流石人気店だけあって、店内は満員でした。きっと私達の代わりに、誰かが入れなくなったのでしょう。 私は人間の文化というものに人一倍――悪魔一倍と言うべきでしょうか――興味がありまして、この手の店をはしごした事もあるのですが、なかなかどうして、人間の食にかける情熱というものは感嘆に値するものです。 質実剛健な天使と違って悪魔は快楽を追究しますから、地獄でも数々の料理があるのですが、やはり新鮮さという点では、人間の料理に敵うものではありません。 ああ、また話がそれましたね。 申し訳ありません。 マデリンはようやっと、大勢の人間の中にいるということを自覚したようです。 今まで狭い部屋の中で、話し相手もおらず独りきりだった彼女にとって、この賑わいは生まれて始めて体験するものに違いありません。 しかし、女性というのは、分からないものです。 「ねえ、クロノ……私の恰好、おかしくないかしら。このドレス、本当に似合ってます?」 「大丈夫、心配はいりません。よく似合っていますよ」 始めてレストランに入った興奮でも、人込みに入った恐怖でもなく、恰好を気にするというのは……見た目だけ女性の形を取れるだけの私には、分かりそうにも無い感情です。 運ばれて来た料理は流石美味でしたが、貴族の娘に生まれて育ったマデリンにとっては、珍しい料理では無かったでしょう。 「……ふう。ご馳走様。もう入りませんわ」 「遠慮はなさらないで、もっと召し上がっては?」 「いいえ、もう結構よ。有り難う。……それよりクロノ」 マデリンは悪戯を思い付いた子供の様な顔をしました。 「女性達がほら、あなたを見てるわ。その内お声が掛かるかもしれないわね」
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