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流石人気店だけあって、店内は満員でした。きっと私達の代わりに、誰かが入れなくなったのでしょう。
私は人間の文化というものに人一倍――悪魔一倍と言うべきでしょうか――興味がありまして、この手の店をはしごした事もあるのですが、なかなかどうして、人間の食にかける情熱というものは感嘆に値するものです。
質実剛健な天使と違って悪魔は快楽を追究しますから、地獄でも数々の料理があるのですが、やはり新鮮さという点では、人間の料理に敵うものではありません。
ああ、また話がそれましたね。
申し訳ありません。
マデリンはようやっと、大勢の人間の中にいるということを自覚したようです。
今まで狭い部屋の中で、話し相手もおらず独りきりだった彼女にとって、この賑わいは生まれて始めて体験するものに違いありません。
しかし、女性というのは、分からないものです。
「ねえ、クロノ……私の恰好、おかしくないかしら。このドレス、本当に似合ってます?」
「大丈夫、心配はいりません。よく似合っていますよ」
始めてレストランに入った興奮でも、人込みに入った恐怖でもなく、恰好を気にするというのは……見た目だけ女性の形を取れるだけの私には、分かりそうにも無い感情です。
運ばれて来た料理は流石美味でしたが、貴族の娘に生まれて育ったマデリンにとっては、珍しい料理では無かったでしょう。
「……ふう。ご馳走様。もう入りませんわ」
「遠慮はなさらないで、もっと召し上がっては?」
「いいえ、もう結構よ。有り難う。……それよりクロノ」
マデリンは悪戯を思い付いた子供の様な顔をしました。
「女性達がほら、あなたを見てるわ。その内お声が掛かるかもしれないわね」
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