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「そう思うのは、あなたが悪魔だからよ」
はっきりとそう言いました。
「悪魔は、人間より遥かに優れているわ。だから、隣にいる人間が普通より少し優れているぐらい気にならないのよ。だけど、男も女も人間だわ。男は女よりずっと優れている訳では無いわ。腕力が強いだけ。だから、女が学を身につけて、男より賢くなって今の立場が逆転するのが怖いのよ」
私は思わず、成る程、と呟きました。
マデリンの言うことは、全くもって正論だったからです。
「まあ、外にも出られない殿方にお会いしたことも無い私が、結婚の話をするのも滑稽だけれどね」
マデリンは淋し気に笑いました。
私はその時、悪魔としては当然の事――あなた達人間からしたら卑怯な事――を考えていたのです。
※
マデリンは生まれてこのかた一度もこの屋敷から出たことが無い少女でした。
「外に、出たいですか?」
私はマデリンに問いました。
「ええ、勿論よ」
マデリンは答えました。
「私なら、あなたの病気をすっかり取り除き、健康な体に戻すことが出来ますよ」
「本当!?」
案の定、マデリンは私の話に食いついてきました。
「ええ。嘘ではありません。その綺麗な魂を私に下さるのなら、あなたを太陽の元に出して差し上げましょう。ヴェルサイユの広い庭を、殿方と歩くことも出来ますよ」
マデリンの瞳は病気の無い日々を思い輝いていました。
その脳には、ヴェルサイユの薔薇園を思い描いていた事でしょう。
しかし、マデリンは首を横に振りました。
「……いいわ。私は、地獄に堕ちたくないもの」
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