第一話~仏蘭西のお嬢さんの話~

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マデリンの返事は、私にとって少々意外なものでした。 「おや、良いのですか?」 「ええ、地獄は恐ろしい所なんでしょう?」 マデリンは怯えたように言いました。 「そうですね。岩肌に囲まれ、硫黄の臭いが立ち込め、陽光は届かず、罪人の苦悶の声が響き、住民は醜い。大体、人間の想像する通りですよ」 勿論、悪魔の位によって環境は変わるのですが、人間が踏み入れる事の出来る範囲では、貴方達が想像する通りなのです。 次にマデリンは……私に、こう言いました。 「でもクロノ、あなたは綺麗だわ」 私の姿を見た者は、大体が『綺麗だ』『美しい』と褒めます。まあ、そうでしょう。この白磁の肌も、闇色の髪も瞳も、貴方達が憧れる物かもしれません。 しかし、私はそう褒められても全く嬉しくないのです。この姿は偽り。変化が得意な私の、仮の姿。この白い肌の下に何が隠されているか等分かりもしないのに、褒めて頂きたく等無いのです。 「そうですか」 ですから私の返事は、僅かに不機嫌さを醸した物になりました。 「ええ、特にその白い美しい肌は、フランス中の女性が憧れるわ」 私の正体を知らないマデリンは言いました。 「それにしてもクロノ……頭のそれは何?角?」 ご覧の通り私の頭には、二対の長細い、黒い物がございますでしょう。 マデリンはこれの事を角と言ったのです。 「これは、耳です」 「……みみ」 私の耳は頭にあるのです。人間の耳があるべき場所は、つるりとして何もありません。 これは、あまり思い出したくない事なのですが…… 「はい。私の耳です。くれぐれも、引っ張らないように」 「へえ」 マデリンは私の話を聞いていなかったらしく、即座に私の右耳を引っ張ったのです。それも、全力で! 「ぁあっ!!」 私は思わず上擦った声をあげました。恥ずべき事です。 「止めてください!!敏感なんですから!!!」 「ごめんなさい、禁止されるとやりたくなって……」 マデリンは花が咲いたように笑いました。 嗚呼、どうも、私はこの笑顔に弱いようなのです! 「もうしないわ。面白かったけれどね」 「面白がらないでください!」 その時はまだ、平和だったのです。 ……あの事件が起こるまでは。
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