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「契約……なさりませんか?」
マデリンは迷って――否、うろたえていました。
それでも、彼女は契約をはねのけたのです。
「地獄に堕ちるのは、嫌だわ」
「……そうですか」
私は……この少女に出会った事で、少々おかしくなってしまった様です。
「なら、一日だけ、契約を請けてみませんか」
「え!?」
マデリンは私の予想以上に驚きました。
「一日だけですから、契約ということにはなりません。一日だけの体験です。魂をかけた契約は、それから考えれば宜しいでしょう」
こうして私は、これっぽっちも得にならない契約をしてしまったのです。
※
マデリンが、ドレスが出来るまで数日待ってほしいと言うので、私はチケットを取りに劇場へと向かっていました。
(……太陽が熱い)
ソロモン72柱のメフィストフェレスともあろうものが、こんな姿を仲間に見られたら恥ずかしくてそれだけで十分死ねるな、等と思ったりしておりました。
太陽の下悪魔が劇のチケットを買いに行くとは、なんて滑稽な絵なのでしょうか。
「ねえ、聞きました?悪魔の娘の噂!」
私の耳(この時は姿を曝していましたので、耳は隠していましたが)は、その言葉を拾いました。
「勿論ですとも。悪魔の娘、マデリンの話でしょう」
私は耳を疑いました。
その先を聞いていると、どうやらピアノ教師がおかしくなった事、昼間外に出られない事に尾鰭が付いたようなのです。私に話し掛けるマデリンの声も、もしかしたら誰かに聞かれていたのかもしれません。
私はその場では何もせず、とにかくチケットを買ってマデリンの元へと戻りました。
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