序章

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「コウ……」 目の前に広がるのは、最愛の兄の姿。 彼は、原型をとどめていなかった。 血と、肉の塊。まさにその比喩以上に、今の彼を表すことはできないと思う。 これが、コウ? あの綺麗な、人? どうして、こんなにぐちゃぐちゃで、どろどろで、醜いの? これは、コウなんかじゃない。 ただの肉の塊だ。 血のにおいがあたりを充満しており、私は思わずその場でもどしてしまった。 「くーちゃん! ……見ちゃダメっ!」 そう言って、私を抱きしめるのは幼馴染の楓喜(カザキ)。 ぎゅうっ……と力を込めて強く、強く私は抱きしめられていた。 コウじゃない。コウはもっと私を優しく抱きしめてくれた。 「カザくん」 私はそう言って、カザくんに抱きしめられた体制のまま、彼を見上げた。 ――なんだか、全てが狂って見えた。 「コウは、どこ?」 でも、一番狂っているのは、自分だって分かってた。 カザくんは、私を抱きしめたまま声を押し殺して少しだけ静かに泣いた。 栖 原 高 貴(スハラコウキ) 享年 十四歳
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