最期の日々1

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「ねぇ、愁くん知ってる?」 「死体の話、聞いたぁ?」 「動くの見た奴が居るんだって~!」 「…あ~、知ってる。てか、最近その話ばっかりだろ…。正直ウザィ」      キレイにお化粧をして、可愛い笑顔を浮かべた子達が、僕の友人に話しかける。彼女達が動く度に、隣りの席の僕の所にまで時々ふわりと甘い香りが届いてきた。友人はと言うと、話しには余り興味が沸かないのか、欠伸を噛み殺しながら適当に相槌を打っている。 「てかさ、千威は相変わらず可愛いね。オレ、好きだよ」 「ちぃも愁くんの事好き~。サボる?帰る?」 急に話を変えられた事じゃなく、1人に意識が向いた事が面白くない2人が、つまらなそうに瞳を歪めた後、他の男子に同じ話をする為に歩き去って行く。 3人の中でも、一際目が大きくて、華奢な子、千威は当然といった雰囲気と共に楽しそうに彼の顔を覗き混んでいた。 「ちぃ、午後の本田の授業嫌いなんだよねぇ」 「じゃ~、行くか。オレ昼メシ食ってない」 「ちぃね、マックが良いなぁ」 「モスのが好き」 「え~、じゃぁ、ちぃもモスが良い!」 「…拓巳は?どうする?」 「僕はいいよ」 「じゃあ、後でな」 「うん。行ってらっしゃい」 そう言い、ひらひらと手を振って去っていく後姿を見送り、僕は教科書を開く。捲るそこには、テストで点を取る為の知識が詰め込まれていた。   未来の為に学んだそれらは、役に立つ事は無かったけれど。 あの時の僕は、そんな事はもちろん知る由もなく教科書を開いた。 彼と千威が、「嫌い」と言った本田の授業を受ける為。            ―未来の為に―。
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