その時、瞳は切なくなる

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   目の前をたくさんの人や、車が通り過ぎていく。 アツシ 敦はぼうっと、その光景を眺めていた。 彼がバス停に座ってから、もうかれこれ二時間が過ぎている。 バスが来ないのではない。彼がバスに乗らないのだ。 敦は本当なら、今頃いるはずの、教室の景色を思い浮かべていた。  みんな勉強してるだろうなぁ……。オレは何をしてるんだろう……。  彼は特に目的があって、バス停に座っていたのではない。 ただ何となく、学校に行くのが嫌になって、最寄りのバス停で、何本もバスを見送っていた。 ただ、それだけ。 何度か腰を上げようと試みたが、一度座ってしまえば、何かきっかけでもない限り、難しい話だ。  彼は、ふうっと息をついた。 すると息は真っ白になって、彼の視界を消した。  寒いんだな……。 当たり前か。雪まで降って来たんだし。 彼は空からこぼれる、白い雪を目で追った。  ──と、何本めかのバスが着く。 敦はまた、それに乗ろうとしなかった。 すると、バスの後方。 一人用の椅子に座っている、長めの黒髪の女性と目が合った。  彼女の目は深い、青色をしていた ……ように見えた。  敦は、その悲しみの色から目がそらせなくなった。 と、バスは敦が乗らない事を知ると、自動ドアを閉め、音を上げて発進した。 女性の顔が遠くなる。しかしその人は、見えなくなるまで、敦から目を離さなかった。 そして、敦も。  敦はしばらく、ぼうっとうつ向いていたが、すっくと立ち上がった。 「歩いて行ってみようかな」 彼は、元気良く足を踏み出す。  そういえばあの人は、死んだ母さんに似てたな。 敦は、積もった雪を踏みしめながら思った。  
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