その時、恋人は神となる

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   ちえの気分は、すこぶる悪かった。 一体どうなっているんだ! 心の中で、待ち人を罵倒する。        ハヤト  ほんっとに、隼人は、待ち合わせを遅らせるのが趣味なのかしら。 まあ、そんなはずはないだろうけど。  ちえは、駅前の丸い筒状の柱にもたれながら、腕組みをした。 しかし、遅い。 ちえは腕時計に目をやる。 今は午前十一時半。待ち合わせは何時だったろうか。 確か、ヤツは自分から 「待ち合わせは十時ね」 と言って来たはずだ。 どうせ守れやしない、と思っていたら案の定である。  彼女は天を仰いで、ため息をついた。 全く、自分はどうしてあんなロクでもない男が好きなのだろう。 ちえは片手で、頭を抱える。 遅刻魔で、待ち合わせには絶対に遅れるし、人のお弁当を勝手に食べるし、自分が納得できなければ、何が何でも嫌だと言うし。  自己中……。 彼女の機嫌はさらに悪くなる。 大体、そんな彼氏に文句は言っても、完全に否定しきれない、ちえもちえなのだ。  今度こそ絶対に、ガツンと怒ってやる! ちえは握り拳を作って意気込んだ。  すると──… 「雪……」 空から真っ白な雪が、ちらちらと舞い下りて来た。 「ちえ!!」 ちえは振り返る。 隼人が必死に手を降りながら、全速力でこちらに走ってくる。  あーあっ。 ちえは思った。  今日も私は、絶対に隼人に文句を言えない。 どうして?どうして? と思うけど、結局のところ、ちえは隼人が好きなのだ。  
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