第一章

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   名前で呼んで、と少女は名乗った後にそう付け加えた。それについては特に問題はないけれど、呼び捨てというのはこれよろしくはないだろう。  高校生の制服を身に纏っているから、わたしより歳下というのはない。とは言え、童女のような微笑みがよく似合う、物理的にもミニサイズな少女をさん付けするのもどうだろう。いや、構わないか。 「耶螺瀬ちゃん?」 「うん?」  向こうは『ちゃん』付けだ。わたしも少女のことを言えないような体格なので仕方ないか。 「あ、ちゃん付けは駄目かな? 一応、私よりかは歳下だと思ったんだけど」 「ん、多分。そっちは何歳なの?」 「高校生三年生だよ」  びっくりだ。 「じゃあ……ちゃん付けしていただいても結構です」  思わず喋り方も改まってしまう。高三ということは年上だ。『七菜さん』だ。 「別にそんな畏まらなくていいよ。ほら、私こんな背丈だし」  自覚はしているみたいね。まあ、わたしもこんな背丈なんだけど。  けど、わたしとしても今更口調を変えるのも面倒くさいし、普段通りに喋らせてもらおう。 「その制服は、御耶高校の生徒だよね」 「うん。この辺じゃちょっとした有名校だよね」  私立御耶高校は、それほど発展してないこの町にしては大きな学校だった。  有名校というのは知らないけど。 「もともとはミッション系の女子高だったんだけど、共学になってから施設を増築したから、それなりに広いし、寮も学校から近いしね。結構人気高だよ?」 「へえ。知らなかった……」  市中のデカい学校程度のイメージしかなかったのだけれど。 「変な人もいっぱいいるしね」 「変な人?」 「うん。私はあまり出会ったことはないけど、番長とか正義の味方とか」  番長とはまたアナクロな存在がいたものだ。そもそも、それだけ大きな高校の番を張るのはさずがに無理がありそうだけど。  後者の正義の味方に関しては、どうコメントしていいかもわからない。ただ、過去の自分の歴史に似たような台詞があったような気がしないでもないので、他人事とも思えない。認めたくないものね、若さ故の過ちというものは。 「個性的でしょう?」 「うん。まあ」 「でも、わたしの周りには普通の人しかいないからさぁ」 「そうなんだ」  悪いことじゃないだろう。普通の基準がよくわからないけれど。わたしもあまり普通ではない気がするし。  
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