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「あ、でも私のお友達に少し変わった子がいてね」
七菜さんはその子についてわたしに聞かせてくれた。
不思議なもので、聞いてみると確かに変な子だった。
それは日常的な非日常なのだけど、非日常的な日常を送るわたしにとっても、決してつまらない話ではない。
そんな子が実際にいるのか、と思わずつっこみたくなるような内容だった。
「──それでね、この前なんか、ええと、あれ何だっけかな」
「……素敵な友達がいるんだね」
「ええ、それはもう」
七菜さんは力強く頷いて、太陽のような明るい笑みを浮かべる。
羨ましいという感情までには達しなかったが、悪くないとは思った。
「あ、そうそう。思い出した。その子ね、学校でつちのこを探して回ってたんだよ」
思わず空を仰ぐ。
「どんな女子高生よっ」
「凄いよね」
それは確かに凄いかもしれない。そして、わたしも少し思い出した。ここに座っていた少女のことを。
この界隈では流行っているのだろうか、つちのこという単語。特に女子高生にフィーチャーされているみたいね。
「不思議な町なんだね、ここは」
呆れ声でわたしは呟いた。他人のことは言えない身分だけれど。
「うーん……まあ、わりと田舎だから」
「関係あるの?」
「どうだろう」
クスリと微笑んでから、少女は携帯電話を取り出す。時間を確認しているみたいだ。
「そろそろ行かないと」
「あ、うん。お大事に」
最初に見た、今にも倒れそうな面持ちは今では見る影もないが、先程まで(今でも?)病人だったのは間違いない。
途中で倒れてはこちらも夢見が悪い。
「うん。ありがとう。また会えるかな?」
澄んだ瞳でわたしをのぞき込む。
わたしは静かに首を振った。
「多分、無理かな」
それがいつかはわからないが、遠くない未来で七菜さんの中からわたしという存在は消える。これは抗えないことだ。
だから、たとえ会えるとしてもそれは約束できない。してはいけない。
「そっかぁ……うーん、仕方ないかぁ」
七菜さんは残念そうに俯く。
「でも、偶然どこかで会うかもしれないよね」
「そうかもね。偶然なら……」
そんな偶然がないことも知っている。何故なら、すべての運命は細い糸によって決まっているからだ。わたしの運命はどこにも伸びていない。七菜さんと交差することもないだろう。
「……」
それでも、選択肢はあるだろうか。
「さようなら」
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