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私はつちのこです、そう名乗った少女に出会ったのは、昨日の事だった。
そう。
わたしが出会ったのは少女だった。
どう視界を歪めても彼女は到底つちのこには見えやしない。
というか、まず、つちのことは何だろうか。
日本における未確認生物、所謂UMAというやつ?
ああ。まあ──いいか。
彼女に興味を惹かれたのは紛れもない事実で、つい話かけてしまったのはやはりわたし自身だから。
「――こんにちは」
昨日に引き続き、今日もわたしは彼女に話かけた。
彼女の持つ存在感は空気のように希薄で、放っておけばそのまま融けて拡散してしまいそうだった。
もちろん、実際にはそんなことは有り得ないけれど、つまりそれぐらい影が薄いってこと。
わたしから話かけなければ、気づかぬ間にするりと逃げてしまいそうな、そんな雰囲気を醸し出しているのだ。
「今日も居るんだ」
わたしが続けて話かけると、ベンチに座っていた少女は振り返ってこちらを向いた。
そうして屈託の無い笑みを浮かべ、
「お出かけですか、レレレのレ」
なんてことをのたまう。
――意味不明。
「ジョークですよ、笑ってやってください」
UMAとまでは言わないけれど、不思議な少女だった。
「隣いい?」
「どうぞ」
わたしは隣に腰掛ける。
「お出かけというより、散歩かな」
律儀に答えてみると、少女はうれしそうに目を細めて微笑んだ。
「それは良いですね」
まあ、平日の昼間から散歩出来る身分はこの国の国民としては『良い』と言えるかもしれない。
客観的にその事実だけを見れば、だけどね。正直ままならない理由もある。
「そっちは?」
「町を見てました」
「ここから?」
ここ――というのはどこにでもあるような公園で、つまりあたしたちが今いる場所だ。
「こんな場所じゃあ、町は見渡せないでしょう?」
「ここから見える町を見ていたんです」
よくわからないけれど、ここからじゃないと駄目なのかな。
「ここでないと駄目ということはないですよ。ただ、ここにいたのでここから見ているだけです」
こちらの心を見透かしたかのように、少女はそう言葉を続けた。
わたしはほとんど理解出来ないまま、けれどそれ以上は問おうとも思わなかった。
「あなたは、この場所に何か?」
今度は少女がわたしに訊ねる。
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