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別に用があったわけじゃない。
ただ、思い入れ――と言うのかな。
出会いがあり、別れがあった。それだけのことなのだけど。
「――小さい頃の話」
言ってから、少女の方をチラリと見る。少女は柔らかい表情で先を促す。
「男の子と出会ったの。わたしが、はじめて『友達』になれるかも、と思った男の子」
今となっても、やはり最初で最後の友達だ。
「その子と出会ったのがこの場所。そして、別れたのも」
「ケンカでもしたんですか?」
「ちょっとままならない事情があってね。説明は難しいけど……そうだなぁ。親に引き裂かれた、ってとこかな」
苦笑しつつそう答えた。
「それ以来、その子とは?」
「んと、最近再会したんだけど。いろいろあって、やっぱりもう会わないことにした」
「どうしてですか?」
「つまり……そう、重荷になりたくなかったから、かな?」
主文を欠いたようなわたしの話を、少女は真剣な眼差しで耳を傾けてくれた。
「好きだったんですか?」
答えは、肯定。
けれど、わたしは口には出さなかった。
それも一つの答えだった。
「そうですか」
それでも少女は納得したように頷いて、視線を外した。その先には青空が広がっている。
つられるように、わたしも空を仰いだ。
不思議な感じだ。
わたしはどうして自分の身の上話をぺらぺらと話しているのだろう。
それでも、どうしてだか、“人”に話している気にはならない。
それはやはり、少女が『人』ではなく『つちのこ』だからなのか。
「そろそろ行くね」
そう言ってわたしは立ち上がる。少女は座ったまま、わたしを見上げた。
「どちらに?」
「散歩の続き」
少女は屈託ない笑みを浮かべる。
「では、ごきげんよう、お嬢様」
「それもジョーク?」
「笑ってやってください」
かろうじて、苦笑を返すことだけ出来た。
わたしはそのジョーク好きなつちのこ少女に別れを告げ、その公園から立ち去った。
不思議な気分だ。
別れを告げたのは少女へなのに、まるで公園そのものに別れを告げたような気分になる。
今日は何だかおかしいな、わたし。
ああ、いや──。
ずっと昔から、おかしいままか。
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