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さて──。
話は少し遡り、そのつちのこ少女と出会ったのは昨日のことだった。
ふらふらと何気なく立ち寄った公園に彼女はいた。
平日の昼間だと言うのに、公園のベンチに腰掛けて、ぼんやりと空を見上げるその様には、どこか浮き世離れした印象を受けた。
ライトブラウンの髪は肩より長いくらい。
市内の私立高校の制服を身に纏っているけれど、昼間から学生がベンチに座ってるのも変だ。
サボり、かな。
よく見ると、瞳は綺麗な薄茶色──いや、というより金色で、吸い込まれそうなくらい深い色を宿していた。
にも関わらず、全体的な雰囲気は異様に薄い。
そして、なによりわたしの目を引いたのは、あるはずのものがないことだった。
わたしにないものが、少女にもない。
世界の全てに在るはずのものを、わたしと同じように少女は持っていなかった。
IFが──ない。
それだけで、わたしの興味を揺さぶるには充分だった。
充分過ぎて、わたしはついうっかり、見ず知らずの少女に話かけてしまっていた。
「あなた、誰?」
我ながら間抜けな第一声だと思った。
少女は振り向き、一生分くらいの間をとった後で──その間わたしはフリーズしていた──事も無げに答えた。
「わたしは、つちのこです」
それが見ず知らずの人間に話しかけられた者の精一杯のジョークなら仕方ないと思う。
しかしながら、彼女は至って真面目な表情を見せるばかりで、そのくせわたしときたら話しかけておいて、それに対し華麗にレスポンス出来る程の余裕を持ち合わせていなかったのである。
ああ、ままならない。
結局まともに話すら出来ず、わたしは逃げるようにその場から去ってしまった。自分から話しかけておいて、何たる失態だろうか。
そして、何か予感のようなものを感じて、再び同じ場所で彼女と出会ったのが今日──つい先ほどまでの話だ。
まともに話を出来たかと言えば、昨日よりは、としか言いようがない。
やれやれ、ままならないなぁ。
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